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本や映画の感想

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中村文則『月の下の子供』"「僕は、これまでに幾度か、幽霊を見た」"

自分の感情が本物なのか、それとも演技なのか、分からなくなったことはありませんか? 中村文則さんによる短篇小説集「世界の果て」に収録された『月の下の子供』は、施設で育った孤独な青年が、他者との関係を築けないまま暗闇へと沈んでいく物語です。純文…

中村文則『ゴミ屋敷』“妻が死んでから、男は動かなくなった。”

愛する人を失った時、その喪失感をどう乗り越えればいいのか。そもそも、乗り越えることなどできるのでしょうか。今回ご紹介する中村文則さんの『ゴミ屋敷』は、そんな問いを、あまりにも奇妙で、どこか可笑しく、そして切ない形で私たちに投げかけてくる物…

橋本治『対話型対戦ゲーム「ネゴシエーター」』“町内の迷惑人間を、みんなで説得して改心させるゲーム”

「どうして、この人には話が通じないんだろう?」そんな風に、対話の難しさを感じた経験はありませんか。今回ご紹介する橋本治さんの短篇『対話型対戦ゲーム「ネゴシエーター」』は、そんなコミュニケーションの本質を、ユニークな切り口で描いた物語です。…

山下澄人『浮遊』“コーヒーを飲もうといつも行く、駅前のコーヒーショップへ向かって歩いていた。”

山下澄人さんの短篇小説『浮遊』は、多くの読者を「わからなさ」の迷宮に誘い込む作品かと思います。明確なストーリーがあるわけでもなく、登場人物たちの視点は目まぐるしく入れ替わり、その内面が語られることもほとんどありません。しかし、その一見不親…

村田沙耶香『清潔な結婚』“「清潔な結婚希望」”

「結婚」と聞いて、私たちはどんなイメージを抱くでしょうか。恋愛の末に結ばれ、愛を育み、肉体関係を持つ。それがごく自然な「夫婦」の形だと、多くの人が考えているかもしれません。しかし、その常識をひっくり返し、「性」を排除したところに成り立つ結…

朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』“自分だけの体、自分だけの思考、自分だけの記憶、自分だけの感情、なんてものは実のところ誰にも存在しない。”

「自分とは、いったい何なのでしょうか」 普段、私たちは自分の体と心がひとつのものであることを、疑いもせずに生きています。でも、もしひとつの体にふたつの心が宿っていたとしたら。そのとき、「自分」という存在の境界線は、どこに引かれるのでしょうか…

井伊直之『ヌード・マン』“人は、全裸の大人の男と遭遇すると、どのような反応を示すだろうか?”

「もし、誰にも言えない秘密の衝動を抱えていたら?」今回ご紹介する井伊直之さんの短篇小説『ヌード・マン』は、そんな問いを突きつけてくるような、スリリングでどこか物悲しい物語です。 主人公は、細川という平凡なサラリーマン。彼は妻と二人の子供に恵…

四季大雅『バスタブで暮らす』“バスタブの冷たさが、背骨にしみわたっていく。落ち着く。”

「バスタブで暮らす」と聞いて、あなたは何を想像するでしょうか。奇想天外なコメディでしょうか、それとも深い事情を抱えた物語でしょうか。今回ご紹介する四季大雅さんの『バスタブで暮らす』は、その両方の要素を含みながら、現代社会に生きづらさを感じ…

長島有里枝『翌日』“こうして一緒に踊れるのなら、死ぬっていうことは自分が考えていたのとは少し違うなにかなのかもしれない。”

大切な家族の一員であるペットとの別れ。考えたくはないけれど、いつかは必ず訪れてしまうその瞬間を、あなたはどう乗り越えますか。 今回ご紹介するのは、長島有里枝さんの短篇小説『翌日』です。この物語は、長年連れ添った愛するペットを失った女性が、深…

太田靖久『サマートリップ』“そういう考え方もないわけではない。”

デパートの宝飾売場で出会った、少し不思議な女性・真帆。主人公の「僕」は、長年付き合った婚約者がいながらも、抗いがたい魅力で彼を惹きつける真帆を選びます。 『サマートリップ』は、そんな二人が過ごす一夏の出来事を描いた物語です。しかし、これは単…

村上春樹『眠り』“私は人生を拡大しているのだ”

もしも、全く眠らなくても心身ともに健康でいられるとしたら、あなたはその「増えた時間」を何に使いますか?そんな夢のような問いから始まるのが、村上春樹さんの短篇小説『眠り』です。本作は、平凡な主婦である主人公が、ある日を境に全く眠れなくなると…

映画『悪い夏』“地獄の果てに希望はあるか?”

うだるような夏の暑さ、退屈な日常、そしてほんの少しの正義感。あなたのすぐ隣にあるかもしれない平凡な毎日が、たった一つの選択で底なしの悪夢に変わるとしたら…? 今回ご紹介するのは、そんなじっとりとした恐怖を観る者に突きつけるサスペンス映画『悪…

映画『シークレット・ルーム』“ある日突然、私は家族を覗き始めた。”

もし、ある日突然あなたが姿を消したら、残された家族はどんな反応をするでしょうか。悲しむでしょうか、心配するでしょうか、それとも安堵するでしょうか。本作『シークレット・ルーム』は、そんな少し意地悪な好奇心から始まった、ある男の奇妙な失踪生活…

村上春樹『窓』“文章というのは結局は間にあわせのものなのです。”

「ペンフレンドの添削指導」という、少し変わったアルバイト経験はありますか。村上春樹さんの短編小説『窓』は、そんなユニークな設定から始まる、不思議な余韻を残す物語です。 主人公の「僕」は、大学生の頃に「ペン・ソサエティー」という会社で、手紙の…

献鹿狸太朗『みんなを嫌いマン』“無理やり背負わされていることに、進んでやっていることと同じだけのクオリティは出せないのだ。”

もし、世界を救うスーパーヒーローが、心の底では「みんなが嫌い」だったら……? そんな衝撃的な物語が、献鹿狸太朗さんの『みんなを嫌いマン』です。タイトルからして、ただのヒーロー譚でないことは一目瞭然。本作は、孤独なヒーローの魂の叫びを、痛々しい…

阿佐元明『色彩』“怖くて仕方がなかった。全身から汗が噴き出し、逃げ出したくてたまらないほどそこに立っていること自体が怖かった。”

「毎日同じことの繰り返しだなあ」 ふと、自分の日常が色あせて見える瞬間はありませんか。かつて抱いていた夢や情熱は、いつの間にか心の奥底にしまい込まれ、かといって今の生活に大きな不満があるわけでもない。そんな、言葉にならない感情のグラデーショ…

井戸川射子『共に明るい』“言葉は息に遅れてでてくる”

もしあなたが乗ったバスの中で、見知らぬ誰かが突然、自らの過去の痛みを静かに語り始めたら、どうしますか。耳を塞ぎますか、それとも、ただじっとその言葉に耳を傾けますか。 今回ご紹介するのは、詩人であり小説家の井戸川射子さんが『群像』2023年1月号…

墨谷渉『潰玉』“女の子でも割れるような弱っちい玉子なら、人類に必要ありませんさようなら。”

人間の欲望は、時に常識の枠を大きくはみ出してしまうことがあります。今回ご紹介する墨谷渉さんの『潰玉』は、まさにその人間の心の深淵を覗き込むような、歪で、しかし純粋な欲望で結ばれた男女の物語です。 法律事務所に勤める男、青木。一見、何不自由な…

墨谷渉『パワー系181』“これこそ本物のエクスタシーだと思った。”

もし、あなたが誰にも負けない圧倒的な『力』を手に入れたら、その力を何に使いますか? 今回ご紹介する墨谷渉さんの『パワー系181』は、そんな究極の問いを読者に突きつける、非常に刺激的でパワフルな一冊です。第31回すばる文学賞を受賞した本作は、身長1…

大前粟生『きみだからさびしい』“「わたし、ポリアモリーなんだけど、それでもいい?」”

「好きなのに、さびしい」——このどうしようもない感情の渦に、あなたも飲み込まれた経験はないでしょうか。今回ご紹介する大前粟生さんの『きみだからさびしい』は、まさにそんな恋愛の核心を突く物語です。 主人公は、恋愛に臆病な青年・圭吾。彼が好きにな…

田中慎弥『完全犯罪の恋』“会わないからこそ二人のつながりはより強固になる、誰にもばれずに。完全犯罪だ。”

芥川賞作家・田中慎弥が描く、初の本格恋愛小説『完全犯罪の恋』。主人公は、携帯もPCも使わない、四十代の作家「田中」。この設定に、多くの読者は著者自身の姿を重ね、物語の世界へと引き込まれていくでしょう。 しかし、本作は単なる私小説ではありません…

香港・日本合作映画『kitchen キッチン』“この世で一番私の好きな場所なの”

キッチンは、孤独な心が帰る場所。 1997年に公開された映画『kitchen キッチン(原題:我愛厨房)』。本作は、日本の人気作家・よしもとばななさんの代表作『キッチン』を、香港を舞台に映画化した一作です。 唯一の肉親である祖母を亡くした日本の少女アギ…

岸川真『蹴る』“こいつ自然に死ぬな――不意に蹴ってみたくなった。”

この小説は、あなたの倫理観を根底から揺さぶるかもしれない 今回ご紹介するのは、岸川真さんの短編小説『蹴る』です。この物語は、2015年に文芸誌『文藝』で発表され、後に作品集『暴力』に収録されました。タイトルが示す通り、本作が描くのは、ひたすらに…

武藤敬司『グレート・ムタ伝』“武藤敬司とグレート・ムタは何を考えていたのか? ”

プロレスとは、単なるスポーツなのでしょうか。それとも、壮大な物語なのでしょうか。 この問いに、一つの答えを示してくれる存在がいます。それが、“悪の化身”グレート・ムタです。そして、そのムタを操る稀代の天才レスラー、武藤敬司選手が自らペンを執り…

映画『悪の教典』“まるで出席をとるみたいに、先生はみんなを殺し続けたんだ。”

「ハスミン」。 その愛称で呼ばれる一人の教師がいました。生徒からは絶大な人気を誇り、保護者や同僚からも信頼の厚い、まさに「教師の鑑」。しかし、その完璧な笑顔の裏には、底知れぬ闇が広がっていました。彼は、他人への共感能力を一切持ち合わせていな…

柳澤健『1984年のUWF』“UWFとは何だったのか。その光と影を描く”

1984年、日本のプロレス界は大きな地殻変動に見舞われました。アントニオ猪木率いる新日本プロレス、ジャイアント馬場が築いた全日本プロレスという二大巨頭が君臨していた時代に、敢然と反旗を翻した団体がありました。その名は「UWF」。彼らが掲げたスロー…

吉川トリコ『余命一年、男をかう』“「楽しくなくちゃ、生きてちゃいけないんですか?」”

吉川トリコさんの小説『余命一年、男をかう』は、人生の価値観を問い直し、本当の豊かさとは何かを考えさせてくれる、心温まる成長物語です。主人公は、幼い頃から貯金と節約を人生の信条としてきた40歳の独身女性、片倉唯。彼女が突然、子宮がんによる余命…

夏木志朋『二木先生』“「きみ、結構いやらしいよね。性格が」”

「普通」とは、一体何なのでしょうか。この社会で「普通」に生きるとは、どういうことなのでしょうか。2019年に第9回ポプラ社小説新人賞を受賞された夏木志朋さんのデビュー作『ニキ』(文庫化で『二木先生』に改題)は、そんな根源的な問いを、読者の胸に鋭…

村田沙耶香『授乳』“「――ねえ、ゲームしようよ」”

『授乳』というタイトルから、あなたはどんな物語を想像しますか?母と子の心温まるストーリーでしょうか。でも、もし作者が『コンビニ人間』の村田沙耶香さんだと知ったら、きっと「普通」の話ではないと気づくはずです。 この物語は、私たちの常識や倫理観…

伊藤たかみ『17歳のヒット・パレード(B面)』“僕は残りの五日間、ぴったりと彼女に寄り添うよ。二人の重みで時間にくさびを打ちながらね。”

「夏は八月の十五日まで。海にクラゲがでたら、夏は終わりなのよ」 もし、あなたの17歳の夏が、あと一週間で終わるとしたら、何をしますか?伊藤たかみさんの『17歳のヒット・パレード(B面)』は、そんな終わりかけの夏に偶然出会った少年と少女の、短くて…