
「どうして、この人には話が通じないんだろう?」そんな風に、対話の難しさを感じた経験はありませんか。今回ご紹介する橋本治さんの短篇『対話型対戦ゲーム「ネゴシエーター」』は、そんなコミュニケーションの本質を、ユニークな切り口で描いた物語です。迷惑な隣人を“対話”で改心させるという、一風変わったゲームへの挑戦が、私たちの日常に潜む「対話」のあり方を改めて考えさせてくれます。
橋本治『対話型対戦ゲーム「ネゴシエーター」』
(『すばる』2018年1月号 特集「対話からはじまる」所収作)
あらすじ
管理職の岩崎が、迷惑な隣人を「対話」で説得する試作品ゲームに挑戦。しかし短気な彼は対話に失敗し、罵倒を繰り返す。状況は悪化の一途を辿り、コミュニケーションの難しさと不成立を皮肉に描く物語。
作品の魅力・ポイント・感想

”言葉”だけが武器のゲーム世界
この物語の舞台は、剣や魔法の代わりに「言葉」を武器にして戦う、独創的なゲームの世界です。プレイヤーの目的は、ご近所にいる少し困った人たちを、対話の力だけで説得すること。暴力はもちろん、論破でもなく、あくまで相手に納得してもらうことを目指します。この現実社会の人間関係をそのまま凝縮したような設定が、物語に不思議なリアリティを与えています。一筋縄ではいかない課題だからこそ、読んでいるこちらも思わず引き込まれてしまうのです。
脚本のような”ライブ感”
この物語は、まるで演劇の脚本を読んでいるかのような、スピーディーな会話劇で構成されています。主人公がゲーム画面を見て思わず発した独り言が、即座にゲーム内の状況を悪化させていく様子は、とてもスリリング。巧みな会話の応酬だけで、キャラクターの短気な性格や物語の展開を鮮やかに描き出す手腕は見事です。このライブ感あふれる文体が、読者を一気に物語の世界へと引き込みます。
対話の失敗が映し出す”現実”
私が最も心を揺さぶられたのは、ゲームをプレイしている岩崎があまりにも「対話」ができない姿でした。対話で問題を解決すべきゲームなのに、彼は感情に任せて相手を拒絶します。その姿は、読んでいて小気味よさよりも、むしろ現実社会に存在するコミュニケーションの断絶を目の当たりにするような、苦い後味を残しました。特に、ゲームが用意した「敵」の単純化された描き方には、複雑な問題を安易に「悪」と断じてしまう、現代社会の危うさが重なって見え、強い憤りを感じたのです。この物語は、対話の重要性を説きながら、私たち自身が無意識に抱える偏見をも鋭く突き付けてきます。
おわりに

本作は、ユニークなゲーム設定、ライブ感あふれる文体、そして読者に鋭い問いを投げかける社会性が、短篇の中に巧みに詰め込まれています。風刺の効いた物語が好きな人や、コミュニケーションについて改めて考えてみたい人に、特におすすめです。あなたもこの奇妙なゲームを通して、対話の本当の意味を探る旅に出てみてはいかがでしょうか。
