E病院で起きた入院患者の連続不審死。この事件を追うフリー記者の視点から物語は始まります。しかし、これは単なる事件の真相解明にとどまらず、人間社会に潜む闇や複雑な人間関係を鋭く描き出す物語です。
あらすじ
E病院で入院患者の連続不審死が発生。噂を聞きつけた週刊誌のフリー記者は、独自に調査を始める。同僚への聞き込みの結果、疑いは一人の女性看護師に。コミュニケーションが苦手で不器用。院内では問題児だった彼女。だが、証言者たちの供述に記者は違和感を覚える……。誰もが表と裏の顔を持っている。何が真実で何が嘘なのか。集団社会に潜む人間の悪意を描く長編ミステリー。
作品の魅力・ポイント
巧みな物語展開
『本日はどうされました?』の最大の魅力は、その巧みな物語展開にあります。フリー記者が真相を追求していく過程で、看護師たちの複雑な人間関係が徐々に明らかになっていきます。特に注目すべきは、コミュニケーションが苦手で不器用な一人の看護師への疑惑です。
この看護師は院内で問題児として扱われていますが、その背景には何があるのでしょうか?
さまざまな証言
この作品の特徴は、複数の登場人物の証言を通じて物語が展開する点です。フリー記者のインタビューを軸に、元看護師仲間や患者、友人、身内など、様々な立場の人々が語る証言が巧みに組み合わされています。
この手法により、一つの出来事が異なる角度から描かれ、読者は徐々に真実の全体像に迫ることができます。また、登場人物たちの証言には個人的な経験や推測も含まれており、それぞれの人物像や背景がより鮮明に浮かび上がります。
現実を反映する物語の深み
この作品の恐ろしさは、事件の残酷さよりも、現実に存在しそうな看護師像にあります。「大口病院連続点滴中毒死事件」のような実際の出来事を思い起こさせ、作品に一層の深みを与えています。
現実世界の出来事を巧みに取り入れることで、単なるフィクションを超えた重みを物語に持たせています。これにより、読者は物語世界に引き込まれるだけでなく、現実の医療現場や人間関係についても考えさせられます。
感想
『本日はどうされました?』を読んで、まず印象に残ったのはそのシンプルながら効果的な仕掛けです。物語の展開は複雑ではありませんが、それがかえって読みやすさと面白さを引き立てています。後半は一気に読み進めることができ、ページをめくる手が止まりませんでした。
特筆すべきは、グロテスクな描写を抑えた巧みな筆致です。入院患者の連続不審死という重いテーマを扱いながらも、過度に生々しい表現を避けているため、ホラーが苦手な読者でも安心して楽しむことができます。
また、この作品は純粋なミステリーとしての楽しさと同時に、人間社会の深層に迫る深い洞察も提供してくれます。病院内の人間関係や、看護師という職業に対する社会の見方など、現代社会の縮図のような側面も感じられました。
加藤元さんの筆力は、登場人物たちの内面描写にも遺憾なく発揮されています。特に、主要な登場人物たちの複雑な心理や、彼らを取り巻く状況の描写は秀逸で、読者を物語の世界に引き込みます。
最後に、この作品を通じて、私たち自身の人間関係や社会の在り方についても考えさせられました。老いた時にどんな看護を受けたいか、また、どんな看護師になりたいかなど、読後も長く余韻が残る作品でした。
おわりに
『本日はどうされました?』は、ミステリーとしての面白さだけでなく、人間社会の複雑さや闇を描き出すことに成功しています。同時に、人間の優しさや希望も垣間見せる、バランスの取れた作品となっています。
ミステリー好きはもちろん、人間ドラマを深く味わいたい読者にもおすすめの一冊です。