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白岩玄『葉子の離婚』“たとえ傷口がふさがっても、傷あとは長いあいだ残るんだ。何もかもが元通りになるわけじゃない。”

「離婚」という言葉を聞くと、どんなイメージを持ちますか? もしかしたら、少しネガティブな印象を持つ人もいるかもしれません。でも、白岩玄さんの小説『葉子の離婚』を読むと、離婚は決して終わりではなく、新しい自分を見つけるための一つの過程なのかもしれない、そんな風に感じさせてくれます。

この物語は、白岩玄さんの別作品『結婚問題』の登場人物、葉子さんにスポットを当てたアナザーストーリー。だから、『結婚問題』を読んだことがある人にとっては、まるで大好きなアーティストのアルバムに入っているボーナストラックを見つけたような、そんな嬉しい気持ちにさせてくれる一篇です。

白岩玄『葉子の離婚』

未婚30

あらすじ

円満な離婚の後、のしかかってきたのは、生活レベルを落としたくないがゆえに、子どもをあてにする母親だった(「葉子の離婚」)。

引用元:Amazon

作品の魅力・ポイント

離婚後の「リアル」な心情描写

この物語の大きな魅力の一つは、主人公・葉子の離婚後の心の揺れ動きが、本当にリアルに描かれているところです。二つ年上の元夫と離婚して二年。性格の不一致が理由で、慰謝料も断った葉子。元夫は料理を葉子に当然のように求めなかったそうで、これには「それ、めちゃえらい!」と思わず心の中で拍手しちゃいました。

離婚届に判を押した時、元夫から「葉子のことは今でも好きだよ。葉子のおかげで救われたところがたくさんあるんだ」なんて言われたら、心が揺さぶられますよね。でも、そんな元夫が再婚することを知った時の葉子の衝撃とダメージは、読んでいて胸がギュッと締め付けられるようでした。自分が知らない間に、元夫が新しい幸せを築いていたことへの戸惑い。「未練はないはずなのに、どうしてこんなに心がザワつくんだろう?」そんな葉子の繊細な感情が、丁寧に描かれています。

葉子を取り巻く「家族」のカタチ

葉子の周りには、ちょっと複雑な家族関係も描かれています。突然泊まりに来る弟の樹。彼は小学四年生の時に事故で右腕を失っています。そして、父親の入院費の支払いから逃げるようにしている母親。その負担は、葉子、妹の幹子、そして樹の三兄弟にのしかかっています。

樹が母親のことを「あの人はきちんと物事を考えて判断するのが苦手なんだよ。(中略)でも悪意があるわけじゃないんだ。できなくて不安だからいつも周りに頼っちゃうだけ」と冷静に分析する言葉には、彼の優しさと、どこか諦めにも似た感情が滲み出ていて印象的です。家族だからこそ、簡単には割り切れない。そんなもどかしさも、この物語の深みを増しています。

心の奥底に響く「言葉」たち

白岩玄さんの作品は、登場人物たちのセリフや、心の声がとても印象的です。葉子がふと感じる「私の周りには変えられない現実がいっぱいあって、気がつくとそれらに取り囲まれて身動きが取れなくなってしまう」という感覚。これは、誰もが一度は感じたことがあるのではないでしょうか。

特に私が「すごく良い表現だな!」とハッとしたのは、「ただ表面を撫でているだけの不毛な毎日」という葉子の心の声。日常の中で、何か満たされない思いを抱えながらも、ただ時間が過ぎていくような感覚を見事に言い表しています。こういう言葉に出会えるから、小説を読むのはやめられないんですよね。

感想

『葉子の離婚』を読み終えて、まず感じたのは、葉子という一人の女性の等身大の姿に、強く共感したということです。『結婚問題』を読んだ時から、葉子のことは気になっていたので、彼女の視点で物語が紡がれるのは、本当に嬉しかったです。まさにファンにとっての「ボーナストラック」のような、特別な一篇だと感じました。

物語は、葉子が離婚してからの日常を淡々と、しかし丁寧に描いていきます。仲の良かった友達が結婚して、ふと一人だと感じることが増えたり、離婚後しばらくはアプローチしてくる男性がまるで宇宙人のように見えたり。そんな些細な心の動きが、とてもリアルで「わかるなぁ」と何度も頷いてしまいました

特に印象的だったのは、元夫の再婚を知った時の葉子の動揺です。もう気持ちの整理はついているはずなのに、予想外のダメージを受けてしまう。「自分が知らないうちに、元夫が幸せな時間を過ごしていた」という事実に、まるで自分だけが取り残されたような感覚を覚える。この感情の描写は、本当に見事でした。慰謝料を断り、家も返すことを決めた葉子の潔さとは裏腹に、心の奥底にはまだ整理しきれない思いがあったのかもしれません。

そんな葉子の前に現れる弟の樹の存在も、物語の大きなアクセントになっています。樹は、母親のことを冷静に見つめつつも、姉である葉子のことを心配しています。彼から「未だに(離婚を)引きずってるの?」「そういう空気が出てるから」とストレートに指摘されるシーン。葉子自身は「未練はない」と思っていても、周りから見れば、まだ心の傷が癒えていないことが伝わってしまう。このやり取りには、思わず「白岩玄さん、このシーンを描きながらニンマリしてたんだろうな」なんて想像してしまいました(笑)。でも、この樹の言葉が、葉子にとって自分自身と向き合うきっかけの一つになったのかもしれません。

そして、葉子が抱える「この世の中には『許せないこと』が存在するのだということを強く実感するようになった」という思いや、「私の周りには変えられない現実がいっぱいあって、気がつくとそれらに取り囲まれて身動きが取れなくなってしまう」という閉塞感。こういった感情は、多かれ少なかれ、誰もが抱えるものだと思います。だからこそ、葉子の言葉がスッと心に入ってくるんですよね。

物語の終盤、樹と水風船で遊ぶシーンがあります。そこで葉子は、求めていた気持ちよさ、誰かと遠慮なく何かをぶつけ合う快感を得て、まるで子供の頃に戻ったように楽しみます。このシーンを読んだ時、葉子の心が少しだけ軽くなったような気がして、私まで嬉しくなりました。体が元気だったことを思い出すように、心も少しずつ元気を取り戻していく。そんな小さな変化が、とても愛おしく感じられました。

白岩玄さんの作品全体に言えることかもしれませんが、会話の中に出てくる「は?」というセリフが、なんだか妙にリアルで好きです。そして、この『葉子の離婚』は、日常の細やかな描写の中に、ふと純文学作家さんらしい深みを感じさせる瞬間があって、それがとても心地よかったです。

おわりに

『葉子の離婚』は、離婚という経験を通して、一人の女性が自分自身と向き合い、少しずつ前に進もうとする姿を、優しく、そしてリアルに描いた作品です。

大きな出来事が次々と起こるわけではありません。でも、葉子の心の揺らぎや、日常の中の小さな気づき、そして家族との関係性の中に、私たちが生きていく上で感じる喜びや悲しみ、もどかしさが詰まっています

「なんだか最近、毎日が同じことの繰り返しに感じるな」とか、「ちょっと心が疲れているかも」と感じている人に、ぜひ手に取ってみてほしい一冊です。読み終えた後、きっと葉子のように、ほんの少しだけ心が軽くなっているのを感じられるはずですよ。そして、『結婚問題』も合わせて読むと、より深く物語の世界を楽しめると思います!

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