石沢麻依さんの『獏(ばく)、石榴(ざくろ)ソース和え』は、不眠に悩む主人公が、友人に誘われて獏の肉を食べる不眠者の集いに参加するという、奇妙で幻想的な物語です。この作品は、現実と夢の境界線を曖昧にし、読者を不思議な世界へと誘います。
石沢麻依『獏、石榴ソース和え』
あらすじ
不眠に陥ったあなたは、友人に誘われ獏の肉を食べる不眠者の集いに参加する。
感想
この物語を読んで、まるでゲーム『ゆめにっき』や『LSD』の世界に迷い込んだような不安感を覚えました。現実離れした設定と、獏という珍しい動物を題材にしていることで、読者は現実と非現実の境界線上を漂うような感覚に陥ります。
私自身は不眠症とは無縁ですが、アレルギー反応で夜中に目覚めて眠れなくなった経験から、不眠の辛さを少しだけ想像することができました。しかし、慢性的な不眠に悩む人々の苦しみは、想像を超えるものかもしれません。
獏という象徴的な存在
獏は中国の伝説上の動物で、夢を食べるとされています。この物語で獏の肉を食べるという行為は、不眠に悩む人々が夢を求めているという象徴的な意味を持っているのでしょう。
獏の肉を食べることについては、私は興味はありますが不安も感じます。見たこともない動物の肉を食べることへの好奇心と、衛生面や調理法への不安が入り混じります。獏の肉は牛肉や馬肉のように半生で食べられるのか、それとも十分に加熱する必要があるのか。こういった疑問が湧いてくるのも、この物語の不思議さを際立たせています。
赤い色彩が織りなす不安と魅力
作品全体を通して、赤い色彩が印象的に使われています。獏の肉の赤、石榴の赤、緋色、紅色など、様々な赤が登場します。これらの赤は、読者に不安感を与えると同時に、不思議な魅力も感じさせます。
特に石榴は、その独特の食感と鮮やかな色彩で、物語に重要な役割を果たしています。ザクロの粒一つ一つが、物語の断片的な要素を表しているようにも感じられます。
不眠がもたらす現実感の喪失
慢性的な不眠は、人間の心身に大きな影響を与えます。睡眠不足が続くと、現実感が薄れ、幻覚や妄想さえ引き起こす可能性があります。この作品では、不眠に悩む主人公が獏の肉を食べる集いに参加するという非現実的な設定を通じて、不眠がもたらす現実感の喪失を表現しているのかもしれません。
不眠症の人々にとって、夜は長く孤独な時間です。眠れない夜が続くと、昼と夜の区別がつかなくなり、時間の感覚さえも曖昧になっていきます。この物語は、そんな不眠症の人々の心理状態を、幻想的な世界観を通して描き出しているのです。
おわりに
『獏、石榴ソース和え』は、不眠という現代社会の問題を、幻想的な世界観を通して描いた作品です。獏の肉を食べるという非現実的な設定は、不眠に悩む人々の心理状態や、睡眠と食事の関係性を象徴的に表現しています。
獏の肉を食べることはできませんが、この物語をきっかけに、自分の睡眠について見直してみるのも良いかもしれません。