
最近、あなたの信じている常識が、ぐらりと揺さぶられるような体験をしたことはありますか。もし、そんな少しスリリングな刺激を求めているのなら、今回ご紹介する一篇がぴったりかもしれません。
今回取り上げるのは、阿部和重さんの『トライアングルズ』という物語です。この話は、小学六年生の「私」の目から見た、彼の家庭教師の先生と、先生が気になっている女性「あなた」との少し変わった関係のお話です。純粋な子供の目から見た、普通じゃない大人たちの行動に、読み始めるともうページをめくる手が止まらなくなります。 読み終えた後、当たり前の日常が少しだけ違って見えるかもしれない、そんな不思議な魅力に満ちた物語です。
阿部和重『トライアングルズ』
あらすじ
小学六年生の僕の家に家庭教師がやってきた。彼の真の目的は、父の愛人「あなた」への接近だった。先生は彼女に異常な執着を抱くストーカーであり、その歪んだ愛の哲学を僕に語り始める。純粋な少年の視点から描かれる、倒錯した三角関係の記録。
作品の魅力・ポイント・感想

小学生が見た、ちょっと変な大人たちの世界
『トライアングルズ』の一番面白いところは、その変わった状況設定だと思います。話をしてくれるのは、まだ子供で、何が正しくて何が悪いのかもはっきりとは分からない小学六年生の「私」。彼の前に、家庭教師の「先生」が現れるところから物語は始まります。
でもこの先生、ただ勉強を教えてくれるだけの人ではありませんでした。先生は、「私」の父親の会社で働く「あなた」という女性にすごく興味を持っていて、彼女のことを普通じゃないくらい知りたがっているのです。「小学生の普通の毎日」と「大人のちょっと歪んだ気持ち」、この二つが「家庭教師」という関係を通して混じり合っていきます。先生は自分の考えを小学生の「私」に、まるで大切なことのように全部教えようとします。
読者は、子供のまっさらな目を通して、この少し歪んだ大人たちの関係を見ることになります。子供部屋という安全なはずの場所で語られる、先生の異常な言葉。このありえない設定が、ぐいぐいと物語の世界に引き込んでくる力になっていると感じました。
「あなた」への手紙、という形式が怖い
この物語のもう一つの特徴は、その語り方です。このお話は、全部が「私」から「あなた」への手紙っていう形で書かれています。
だから、読んでいると「この手紙を受け取ったあなたはどう思うんだろう?」とか「この後、結局どうなったんだろう?」って、ずっとドキドキさせられます。まるで誰かの秘密の日記をこっそり読んでいるような気分になるんです。
そして、登場人物の話し方もすごく印象的でした。小学生の「私」はすごく淡々と話すんですけど、先生はとにかくよく喋る。その温度差が、だんだん不気味に感じられてきます。 この手紙を読んでいるうちに、いつの間にか自分もこの奇妙な出来事の当事者になったような、そんな不思議な気持ちにさせられました。
誰もが持つ「知りたい」という純粋で危険な気持ち
私がこの物語で一番ゾクっとしたのは、家庭教師の先生が、自分の普通じゃない行動を、自分なりの理屈で正しいことのように話す場面です。彼は、付き合う前に相手の素の姿をすべて知っておけば、後でガッカリすることもないし、相手のこともっとよく分かるはずだ、と主張します。
誰かを本気で好きになった時、「相手の全てを知りたい」と思ってしまうのは、自然なことかもしれません。好きなものや嫌いなこと、色々知れば、もっと仲良くなれるはずだと、誰でも考えますよね。
先生は、その純粋な気持ちを、やりすぎてしまっただけなのかもしれません。彼の行動は絶対におかしいです。でも、彼の言っている理屈に、どこか「分からなくもないかも…」と思ってしまう瞬間があって、それがすごく怖かったです。人を好きになるってどういうことなんだろう、どこまでが純粋で、どこからが異常なんだろう、と深く考えさせられました。
おわりに

阿部和重さんの『トライアングルズ』は、小学六年生の男の子の目を通して、ある家庭教師の普通じゃない愛情の形を描いた、忘れられない読書体験ができる一篇です。そして、物語が「あなたへの手紙」という形で進んでいくので、どんどん引き込まれてしまいます。
この本は、普通の恋愛小説には少し飽きてしまった人や、人間の心の不思議さ、ちょっと怖い部分に興味がある人に特におすすめしたいです。ドキドキしながら一気に読んでしまえるような、刺激的な物語を探している方にもぴったりだと思います。
普段私たちが信じている「愛」って、一体何なんだろう。この物語は、そんな当たり前を揺さぶってくるような力を持っています。ぜひ、この不思議な感覚をご自身で味わってみてください。


