
乙一さんの小説『死にぞこないの青』は、読む者の心をえぐるような深い心理描写と、どこか不気味で切ない雰囲気が特徴の作品です。 小学生の主人公・マサオが抱える孤独や苦悩を通じて、人間の心の闇や救いについて考えさせられる内容になっています。本作は、乙一さんが得意とする「暗くも美しい世界観」が存分に発揮された一冊で、読む手が止まらなくなること間違いありません。
乙一『死にぞこないの青』
あらすじ
飼育係になりたいがために嘘をついてしまったマサオは、大好きだった羽田先生から嫌われてしまう。先生は、他の誰かが宿題を忘れてきたり授業中騒いでいて も、全部マサオのせいにするようになった。クラスメイトまでもがマサオいじめに興じるある日、彼の前に「死にぞこない」の男の子が現れた。ホラー界の俊英が放つ、書き下ろし長編小説。
作品の魅力・ポイント

主人公・マサオへの共感
主人公のマサオは、引っ込み思案で自己主張が苦手な小学生です。読者は彼の内面や境遇に共感しながら物語を進めることになります。 特に、学校生活で感じる孤独や大人への恐れなど、多くの人が子どもの頃に経験した感情がリアルに描かれており、「自分もこんな気持ちになったことがある」と思わず振り返ってしまう部分が多いです。マサオが担任教師から受ける理不尽な仕打ちや、それに対して反論できない葛藤は胸を締めつけます。
謎めいた存在「アオ」の登場
物語の中盤から登場する「アオ」という存在は、作品全体に不気味さと緊張感を与える重要な要素です。 「アオ」はマサオ自身の中に眠る感情や人格とも捉えられますが、その正体は曖昧で、読者それぞれの解釈によって異なる印象を与えます。この曖昧さが物語に深みを加え、「アオ」がマサオを助ける場面では読者もホッとする一方で、その力には恐怖を感じずにはいられません。
心に残るラストシーン
本作のラストシーンは、衝撃的でありながらどこか救いを感じさせるものとなっています。 特に、第4章で担任教師との対峙が描かれる場面では、マサオ自身の優しさや成長が垣間見えます。彼が最終的にどのような選択をするか、その結末には読後も考えさせられる余韻があります。
感想

『死にぞこないの青』は、主人公・マサオへの共感から始まり、不気味な「アオ」の存在によって物語が進むにつれてどんどん引き込まれていきました。 私自身も子どもの頃、引っ込み思案で先生との会話すらほとんどなかった経験があります。そのため、マサオが抱える孤独や恐怖には強く共感しました。もし自分も意地悪な担任教師に出会っていたら、同じような状況になっていたかもしれません。
特に印象的だったのは、「アオ」の存在です。 この謎めいたキャラクターは、一見するとマサオ自身とは相容れないようにも思えます。しかし、「アオ」が現れることで彼が救われたことは間違いありません。私は「アオ」をマサオの中に眠っていた憎悪や反抗心とも捉えましたが、それ以上に「外部から来た何か」、例えば悪霊や守護霊のような存在として感じました。特に崖から落ちた際にも命を助けてくれたように思える点では、「アオ」が彼を守ろうとしていたことが伝わってきます。
また、本作は心理描写だけでなく、展開そのものも非常にスリリングでした。マサオが追い詰められていく様子には胸が痛む一方で、「どうなるんだろう」とページをめくる手が止まりませんでした。 そして、第4章で担任教師との決着を迎えるシーンでは、一瞬「このまま命を奪ってしまうのでは」とハラハラしました。しかし、そこでとどめを刺さない選択をしたマサオには彼自身の優しさや人間らしさを感じました。この結末だからこそ、本作はただ暗いだけではなく、一筋の光明を感じさせる作品になったと思います。
最後まで読んだ後、「第4章で終わりでも良かったかもしれない」とも思いました。それほどまでに第4章のラストシーンには強烈なインパクトがあります。 ただ、その後も物語は続き、余韻を持たせながら終わる形になっています。この構成のおかげで読後感は非常に深く、長く心に残りました。
おわりに

『死にぞこないの青』は、人間関係や孤独について深く考えさせられる作品です。 主人公・マサオへの共感から始まり、不気味で謎めいた「アオ」の存在によって物語全体が緊張感と魅力に包まれています。そして何よりも、最後まで読まずにはいられない展開力と、読後にも心に残る余韻があります。
乙一さんならではの美しくも切ない世界観と、人間心理への鋭い洞察力が光る本作。暗いテーマながらも希望や救いを感じさせてくれる一冊なので、ぜひ手に取ってみてください。

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